「雲になったススキ」

小さな物語

 春の新しい若葉を出したばかりのススキは広い空を見上げた。真っ青な空が広がっている。そこには白い大きな雲が左から右へとゆっくりと流れていた。雲は時に大きくなったり小さくなったり、白く見えたり灰色っぽく見えたりする。

 ススキにとって空に浮かぶ雲は憧れだ。だっていつでも好きなところにいけるのだから。

 ススキ:「いいな自由で、いつでも好きなところに行ける」

 一方、雲は空から見晴らしの良い丘の上の新緑の若い芽が少し出だした草原を見下ろしながら、これから始まる新しい一つの営みを見守ろうと心に決めた。

 雲:「また新しい季節が始まる。思い切って話をしてみようか」

 真夏の夜、昼間の猛暑とは違ってこの日は月も夜空を明るく照らしている。そのため空に浮かぶ雲もくっきりとよく見える。また、心地よい風が程よく小川に水が流れるかのように草原のススキ達の間を通り抜けて行く。

 この頃には、ススキと雲は気軽にお話しできる仲になっていた。また、お互いに気遣うことも忘れていない。

 雲:「ススキ君は強いね。夏の猛暑にも耐え台風のような強い風にも吹き飛ばされない」

 ススキ:「そんなことないよ。僕は単に日向が得意なだけだし、一人では風にも負けちゃうけど仲間と根で繋がっているから風にも負けないだけなんだ。そして、雲さんのように好きな時に好きな場所に移動することもできないんだ」

 実りの秋、ススキもまたたくさんの種子を実らせその一生の中で最も楽しい時であり、試練とも言うべき自然との戦いの時でもある。

 ススキ:「あとはこの風を乗り越えるだけだ。神様どうか種子を開放できる機会をください。」

 雲もこの時ばかりは油断はできない。

 雲:「雨風激しい時も穏やかな秋晴れの時も、自然の営みの中では必要なことなのかな」

 ススキ:「たぶん雪が降るような寒い時には私はいないでしょうが、雲さん、どうか私の種子をどこか遠くまで届けてください。種子の時だけ雲さんと同じように自由になれるので」

 雲:「わかったよ。約束するよ。今までありがとう」

 雲はススキとの約束を果たした。その後、冷たくて寂しい冬の季節を迎えている。新しい季節が始まるまで、雲はススキ君のことを思い出していた。そして、新しい生命についても。